本研究は以下の3つの論文から構成される。いずれも、イギリスの中等学校長への質問紙調査によって得られたデータを分析したものである。 第1の論文は、「学校選択の自由化による生徒獲得競争が教育水準を向上させる」か否かの検討を通して教育水準向上政策としての有効性を明らかにすること、および、学校選択の自由化がもたらした問題点を分析したものである。その結果、市場原理の教育への適用による教育水準向上効果については、効果的であるとはいえないことが明らかになった。また、いかなる問題点を引き起こしたかについて、「勝利校」と「敗北校」を比較した結果、後者において、好ましくない結果がもたらされている傾向があることが明らかになった。 第2の論文は、学校選択の自由化が、学校内部、父母との関係、近隣の初等学校および中等学校との関係、においてどのような影響を与えたかを分析したものである。その際、「学校選択の自由化」という制度の変更のレベルと、市場原理が働く「生徒獲得競争」の強さとの関係のレベルに分けて分析を試みた。 第3の論文は、市場原理の教育への導入は、教育の個性化の観点からはどう作用するのかを分析したものである。学校教育に関する13の項目について分析した結果、「生徒獲得競争」が校外試験の成績向上等9つの事項について正の影響を与えていることが明らかとなった。しかしながら、これらの諸事項は、多くの学校が努力したと答えた項目でもある。したがって、個性化というよりは同一的方向に学校の努力が向けられていると解釈できる。また「カリキュラムの特色化」については、学校選択制度はあまり有効ではないことが解明できた。 この最後の点は、学校選択制度導入政策の根拠として我が国でもいわれている教育の特色化という主張に対して、示唆的である。さらに、第2論文の分析結果である、市場原理によって、中等学校間の教育的・経営的協力は得られにくくなることも合わせて考えるならば、教育の個性化・特色化という観点からは、学校選択制度は、あまり有効ではないのではないかと考えられる。
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