本年度の研究目的の中心的課題は、本研究の3つの柱(ミッションの遺産、社会福祉の影響と生業変化、先住民としての権利主張の伸張)のなかでも、三番目の「先住民としての権利主張の伸張」の視点を中心とした研究を行うことにあった。そのため、オーストラリアにおいて、アボリジニのコミュニティでの参与観察調査と文献資料調査を行った。2000年にオリンピックが開催されたことによって、オーストラリア国家の中でのアボリジニへの視線は大きく変化した。国際的な注目につながったオリンピックという契機は、アボリジニの先住権の主張の動きをさらに加速したと言える。それを受けて、アボリジニの人々自身の外部への態度にも変化が見られた。2001年は、オーストラリア連邦成立100年にも当たり国家にとっても象徴的な年であった。このような全体的な動きを背景として、アボリジニへの注目がさらに強まる機会が増えていた。その一方で、メディアや政治、学問的な場でのアボリジニの露出度の多さに、飽和感をもらす人々もいて、非常に興味深い状況が見られた年であったといえる。この時期に調査を行った意義は大きかったと考えている。 現地調査とあわせて、キャンベラの国立アボリジニ・トレス海峡諸島民研究所で、ミッションの歴史的背景を中心に、資料文献を調査した。国内での資料調査も継続して行っており、これとあわせて、オーストラリア北部の調査地をめぐる歴史的な変遷の全体像が解明されつつある。 国内では、今年度も昭和女子大学にあるカナダの植民地時代の資料の調査を継続した。その結果、カナダでのイヌイットの植民地経験のオーストラリアとの差異が次第に明らかになりつつある。次年度はカナダでの海外調査を行い、さらに国内では入手困難な資料について、マクギル大学を初めとする各研究機関において文献調査を行うととともに、イヌイットのコミュニティでの参与観察を行う予定である。
|