本年は当該研究実施の最初の年であるために、次の2点を中心に研究を行った。 1・沖縄県八重山郡鳩間の実態調査:研究代表者は1970年代に鳩間島の実態調査を実施し、いくつかのモノグラフを書いたが、その後の20余年間の変化についての概要を得た。この結果をふまえて今後は調査項目を絞りインテンシヴな調査を行う。調査地は鳩間島以外にも鳩間出身者の多く住む本島の那覇市と石垣市を選定した。鳩間は、1970年代後半には人口、世帯数ともに激減し、特に世帯数は20世帯を割り込んだが、その後はむしろ緩やかに上昇しつつある。その要因として、本島を始め、本土各地から島に移る住む家族がいるからであり、それら家族が数年で島を出ても、また新たな家族が転入してくるからである。小中学校も一定の児童・生徒数を維持している。しかし、伝統的な御嶽祭祀については、後継者不在のままで、島の最高御嶽の女性司祭者のみが島と石垣島を往復しながら役を果たしている。また、島を出た人々の間でも御嶽祭祀やカミ願いなどの儀礼についての関心は薄くなっている。 2・石垣市北部地区の調査地設定のための予備調査:1950年代の政府計画移民や自由移民による入植者によって開発された石垣島北部地域は、経済のグローバル化と日本政府の農政の影響を受けながらも、開発が続けられた。予備調査では、北部開発村落の概要を調査し、役場、資料館、図書館などで資料を収集し、また住民から話を聞いた。結果、来年度の調査地として、伊原間と明石の2カ所を選定した。伊原間は古くからある「伝統村落」と敗戦後の宮古島・沖縄本島からの移民が合体して成立したムラであり、牧畜業が主たる産業である。來年度はこの地区のインテンシヴ調査を実施する。
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