人、もの、情報のグローバル化とボーダレス化は、一方で伝統的な村落社会を解体させたが、同時に人々の流入による新しい地域社会を作りあげている。このような地域社会の解体と再生の動向を沖縄県八重山の鳩間島と石垣島北部地区の伊原間でインテンシヴな調査を実施することで確認をした。鳩間島では1970年以降過疎化が進行した。しかし、島を出た人々は転出先の石垣島で新たな「鳩間共同体」をつくり、鳩間社会の「真の」崩壊をくい止めてきた。具体的には、祭りの実施や水道敷設、廃校阻止などである。島に直接生活の基盤をもたないまま、意識としての鳩間人が醸成され、そして島も絶えず外来者を受け入れることで地域祉会を存続させてきた。そして近年は定年後の帰郷者が新たな共同体を再生している。 石垣島北部域では、戦後の開拓移民の多くが去った後も、本土から絶えず外来者が短期的に居住をくり返すことで、一定の人口が保たれるようになっている。また、開拓移民の人たちによる近年の開拓記念誌発行の「流行」は自分たちのアイデンティティ確認の場を提供し、また新しい祭りを創り上げることで地域に新しい「伝統」が生まれている。過疎化や高齢化の問題が議論されて久しいが、八重山の現状は日本全体が高度成長の反省、帰農、スローライフなどの言質で語られ、また巧妙に色づけされた「沖縄楽園主義」による沖縄志向者の増加によって、むしろ過疎や高齢者の多いムラ自体を肯定的にとらえたい新しい意識をもつ人々の居住地へと変貌している。 ムラの基本原理となっていたカミ信仰、御嶽祭祀の変貌について考察することが今後の課題である。
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