本年度は、科研の最終年度であったため、これまでに写真撮影を行った、滋賀県蒲生郡竜王町弓削の長老衆が保管している古文書の翻刻、および同町鵜川の旧家、鵜川家文書の翻刻を行い、「弓削・長老文書-滋賀県蒲生郡竜王町弓削-」(「苗村・鵜川家文書-滋賀県蒲生郡竜王町鵜川・鵜川文治家所蔵文書-」として写真とともに翻刻原稿の製本を行った。弓削の古文書で注目された点は多いが、その一つは、阿弥陀堂の守りと行事を行っている八人の長老(オトナ)の由来が書かれている点であり、鵜川家文書では、苗村荘の郷社である苗村神社と鵜川家との由来を説いている点であった。村の長老の由緒、家の由緒を説いている古文書を代々の長老、家長が引き継いできている点が共通しており、注目された。この内容の分析については、現在、継続中である。 また、3年にわたって行なってきた滋賀県、奈良県、京都市など近畿地方の村落および岩手県、栃木県などの東北、関東地方の村落における民俗調査によって得られた資料をもとに、『隠居と定年-老いの民俗学的考察-』(臨川書店)を執筆、刊行し、研究成果の一部とした。そのなかで、老いには宮座などの制度のなかに見出される老いと個人のそれとの両方の側面があることが注目され、そこから老いの意味の探求のさらなる深層への視点を得ることができた。
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