本研究は、現在をいきている北部カメルーンのフルベ族の都市民を中心に、数十人のインフォーマントの個人史を中心とするインタビュー調査をおこなった。個人の記憶と関心度、教養に差があるので、インタビューからえられる情報は、均質ではない。たとえば、男性のインフォーマントは自分の人生と社会変動とかさねあわせる傾向にあるが、女性のインフォーマントは社会変動より、個人の生活におこった様々な変化に重点とおいて話をする傾向がある。また、男性の場合、自分のしてきた仕事を中心とする、個人史が展開するけれども、女性においては、初婚から、離婚、再婚、離婚の結婚歴を中心とする個人史が語られる。この性差による回答の差こそ、この社会のあり方を端的にものがたっている。だから、社会変動は、男性におおきな影響をあたえ、その影響が女性に波及する形をとる。 個人の社会的な位置、すなわち、どの社会階層に属するかということについては、十九世紀のイスラム化にともなうフルベ族を優勢とする時代の影響は二十一世紀め今日にもみられる。父系制度原理をもつて、フルベ族は非フルベ族の女奴隷との結婚によって、フルベ族社会を膨張させてきた。その結果、母系原理にもとづく差別をうみだしてきた。二十世紀になってからヨーロッパ人による植民地化がおこり、ヨーロッパ的な価値観が導入される。これは学校教育に端的にあらわれる。フルベ族はヨーロッパ的教育に、否定的な態度をとってきた。その結果、近代的な職業には適さない人たちをつくりだしてきた。この近代社会への不適合が貧困化という形で、個人の生活のおおきな影をもたらした。フルベ族出身の前大統領時代には、北部出身者に対する優遇政策のおかげで、フルベ族社会もうるおっていたが、南部出身大統領の就任により、ここ十数年は、フルベ族の貧困化が目立つようになってきたといえる。これにとどめをさしたのが、1994年におこったCFAの平価切り下げである。これらの変化はひろくうすく、フルベ族社会にすむ個人の生活に影響をおよぼしてきたといえる。
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