1、皮なめしは、季節を考慮した動物の捕獲、皮剥ぎ、除毛、肉や脂肪の除去、なめし媒材の塗布、乾燥、燻煙などの複雑な工程を経る。これらの工程には、通常、民族ごとの技法の相違が反映され、これまで重要な研究対象とされてきたが、技法の相違を特徴付けるのは民族差だけにとどまらない。したがって、本年度は具体的ななめし技法の体系とその技法を選択した理由、使用する道具類の詳細を明らかにすることを調査の主眼とした。 2、国内調査としては、アイヌ・ウイルタ・ニブフ・ウリチ・オロチ・ウデへ民族について過去に様々な研究者によって実施された既存の聞き取り調査レポートの中から、皮なめしに関する部分の分析と要約を実施し、あわせて動物皮の特徴・季節ごとの品質の相違・獲得手段の差異についての検討を実施した。 3、国外調査としては、サハリン、千島で、人類学調査を実施し、近代以降に先住民を利用して帝政ロシアや日本が行っていたオットセイなどの海獣や高級な毛皮を提供するラッコ、キツネ、クロテン、カワウソなどの小型毛皮獣なめし活動の技術的・経済的な側面を明らかにした。また、ロンドンの人類博物館、大英図書館、オックスフォードのピットリバース博物館等で環北太平洋諸民族が実際に使用した皮なめし関連物資文化資料の調査を行い、同時に近代国家が積極的にバックアップした国策会社の植民地経営にかかわるドキュメントの分析から、世界経済における毛皮の重要性が一気に増大した過程を明らかにした。
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