本年度は、種々の事情により代表者自らによる海外調査は実施できなかったが、来日したカナダ・アルバータ州立博物館研究者と博物館における毛皮資料の保存、管理の方法について有益な情報交換を行なうことができた。 皮革処理の工程に関しては、2002年の夏に北海道開拓記念館の研究職員が実施した人類学調査によって収集された、現代のニブフが実施しているアザラシの皮なめしに関するデータの分析を行なった。あわせて、2000年にカムチャッカで実施された人類学調査時に収集された、現代のエヴェンによるトナカイの皮なめしに関する資料と既存資料の比較検討を行なった。これら最新の調査成果の一部は、本研究成果報告書に盛り込むほか、紋別市の北海道立オホーツク流氷科学センターにおける第11回企画展「この海のむこうに」でカラー冊子、写真パネルおよび実物資料によって一般に還元した。 海外に保管されているN.G.マンロー収集アイヌ文化資料が里帰りしたことに鑑み、アイヌの皮革加工に使用する道具を含む、北海道開拓記念館が所蔵するマンローアイヌコレクションとの詳細な対比を行なった。その過程で平成14年4月〜9月にかけて来日したスコットランド国立博物館・オックスフォードピットリヴァース博物館・大英博物館研究者らと、これら資料の性格に関する活発な討論を行なった。その成果は単行本『海を渡ったアイヌの工芸』として刊行した。 世界経済に統合される前後のラッコを対象とした近世以降の商品獲得・利用・流通の実態を、網走で開催された第17回北方民族文化シンポジウム『北太平洋沿岸の文化-資源利用のあり方-』において「千島列島におけるラッコ猟とグローバル経済」というタイトルで発表した。
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