本研究の取りまとめの年にあたり、前年度に引き続き、(1)各地に史料調査に出かけ、幕藩領主の意識・思想を読みとり得る史料として、(1)幕藩領主自身の編著作類、(2)幕藩領主が遺したという由緒をもつ大名家訓類、(3)幕藩領主の言動を側近・近習らが書き記した言行録、(4)幕藩領主を後世「明君」として美化しその言動を書き記す明君言行録、を調査・収集してきた。併せて、(2)幕藩領主の旧蔵書の調査、及び蔵書目録の調査も精力的に行ってきた。 その結果、(3)収書傾向を見ると、個々の幕藩領主の蔵書には一定の個性が認められるが、軍書(軍学書・軍記物)や政道書等の書物は、すべての幕藩領主が共通して持っていることがわかった。この事実を踏まえて、軍書が日本近世という時代においていかに大きな歴史的役割を果たしたのか考察し、「目本近世における軍書の歴史的位置」という論考を執筆した。 また、(4)上は将軍から下は民衆まで同一の書物(軍書及び天文学・暦学書)を読んでいるという事実に着目して、吉宗が将軍として君臨した時代の社会と文化について考察し、「享保〜天明期の社会と文化」という論考を執筆した。 本研究の成果を踏まえて、(5)カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で行われた国際シンポジウムで、「近世人の思想形成と書物--政治常識・コスモロジー・世界観」という報告を行った。
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