研究概要 |
新渡戸の国際平和に関する理念については太平洋問題調査会の活動を中心に考察し、さらに日本友和会の結成などを中心に、1920年代中ごろから満州事変期までの時期においてそうした理念が賀川豊彦の思想と社会運動・平和運動にいかなる影響を与えたのかを明らかにすることができた。その結果、満州事変前後の緊迫した東アジア情勢の中における太平洋会議とその母体である太平洋問題調査会(Institute of Pacific Relations,略称I.P.R.)に関わった日本の知識人たちが、国際紛争の只中で構想していたインターナショナリズムのあり方を具体的に明らかにすることができた。しかしながら、次のような課題が残された。 欧米や中国側から見た新渡戸や賀川の国際平和運動と太平洋問題調査会の活動の位置づけについては、ロンドンのThe British LibraryのNewspaper Libraryが収集・所蔵している新聞史料である程度把握することができたが、当該時期の欧米の平和運動をささえた理念を総体として明らかにするまでには程遠く、したがって、その中での新渡戸や賀川といった日本の国際平和主義の立場にたつ知識人の思想の位置づけについても不十分なものにとどまった。また、太平洋問題調査会に関する一次史料は、ハワイ大学、東京大学、一橋大学などに保存されており、ここ数年の調査でその主要なコレクションに直接触れることが出来た。しかし、ハワイ大学のHamilton Libraryなどには膨大な史料群が所蔵されており、今回はその一部に触れたにとどまっている。前述の残された課題を明らかにするためにも、さらなる史料調査と研究が必要である。
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