本研究は、戦国期吉川氏の内部構造を踏まえ、同氏の毛利氏領国内における機能を再検討することを通じ、戦国期大名権力の地域支配(具体的にはおおむね山陰地域支配)の性格を明らかにしようとするものである。そのため、平成12年度においては、吉川氏の権力基盤の構造と展開、及び毛利氏領国における吉川氏の位置づけを鮮明化することに重点を置いた。 まず、吉川氏に関するあらゆる史料の収集を目指して、目録作成に着手した。本研究の主たる目的は、16世紀後半の吉川氏の実態解明にあるが、その歴史的前提や歴史的位置づけを明らかにするために、鎌倉時代から元和年間までの全ての吉川氏関係史料の収集を進めた。具体的には、活字史料の検索を行うとともに、山口県文書館・岩国徴古館・東京大学史料編纂所などにおいて史料調査を行った。本年度は、刊本からの抽出に重きをおいたが、すでに4000点を超える史料の存在を確認している。この数字は、当時の中世武士団、戦国大名文書の中でも注目すべき量であろう。来年度も、引き続き未刊行史料を中心とした収集を進めたい。 次に、本年度は、基礎的な作業として、吉川氏研究の支障となってきた年未詳文書の年代比定を進めた。第一に、吉川興経・元春・元長の花押の収集を進め、それぞれについて、時期による花押の変遷をほぼ解明した。今後もさらに調査をすすめ、その精度を高めていきたい。第二に、吉川家文書の中で、特に天文年間前半の安芸国・備後国・出雲国に関する政治史の解明に欠かせなかった、一連の年未詳文書群について分析し、それぞれ有力な仮説を提示することができた。これによって、毛利氏の支配体制に組み込まれていく直前の吉川氏の歴史的動向を明らかにする道筋が得られたと考えている。 さらに、毛利氏支配下の山陰地域における吉川氏の歴史的位置づけをめぐり、特に出雲国杵築大社の造営に関する分析を、新出史料に基づいて行った。来年度は、吉川氏の直接的基盤(家臣団・吉川領)の実像と展開の解明を進めるとともに、山陰地域全般にわたる吉川氏の役割に関する分析を行う予定である。
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