本研究では、19世紀段階における東北太平洋沿岸の海運勢力「奥筋廻船」について、研究の基礎となる古文書史料の発掘とそのデータベース構築に取り組み、それをもとに、それらが地域社会に与えた経済的・文化的影響について考察した。発掘整備した主たる史料群は次のようなものである。 1)宮城県石巻市在住の本間家所蔵になる古文書約500点の整理・解読を完了した。この古文書は、石巻穀船の元船主武山家のもので、主として江戸方面との通商に従事し、各港の商人との多彩な交流関係が確認された。翻刻史料は、当研究の冊子体報告書に全文掲載した。 2)宮城県塩竈市在住の丹野家所蔵になる古文書約100点の整理・解読を完了した。この古文書は、塩竈港の有力な五十集商人であった丹野家のもので、これによって、仙台領各地で生産された水産物が塩竈港で一手に水揚げされ、さらに仙台方面へと移出されていった流通経路が具体的に明らかになった。 3)宮城県雄勝町大須在住の阿部家所蔵になる古文書約300点の整理・撮影を完了した。この古文書は、大須浜で最も有力な網元であり、かつ千石船を有して江戸や塩竈へ五十集を移出していた阿部家の経営や商圏を具体的に明らかにするものである。撮影された画像は、CD ROMに収録し、冊子体報告書に添付した。また目録も刊行済みである。
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