日本における林業技術の近代化過程について、在来技術と近代技術の連関に力点を置いて分析することを通じてその特質を明らかするために、森林鉄道導入及び輪伐に関して、主として青森・秋田・木曾・山口の各林業地について、近世・近代期の資料(文献・史料・図絵)を調査・収集し、目録と資料データベースを作成する作業を行った。この作業を通じて得られた知見は、以下のようである。 1、近世期において、津軽・秋田では冬季積雪を利用した雪国独特の伐採技術体系が、また木曾では職人身分集団に支えられた伐木と運材の分業による木曾式伐木運材法と呼ばれた独自の伐採技術体系が存在した。近代になり、津軽・秋田では材木増産のために木曾式伐木運材法の導入を試みるが、芳しい成果が得られないために、運材工程の機械化である森林鉄道導入が推進された。一方、木曾においては強固な職人集団や木曾式伐木運材法の存在によって、森林鉄道導入は比較的遅れたと考えられる。 2、近世期の萩藩(山口藩)では、近世初期以来の濫伐による森林資源の枯渇に対応して、伐採しながら森林荒廃を防ぎ、保続するための計画的施策であった番組山(輪伐制度)が18世紀中頃に実施された。番組山は、その森林保全思想や綿密な計画、全藩規模での実施ということから、近世期に行われた輪伐のなかでも画期的な施策であったと位置づけることができる。しかし、幕末期にかけて藩財政窮乏化による濫伐によって番組山は頓挫し、ここに幕藩制社会における輪伐制度の限界をうかがうことができる。
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