当研究における目的は、現在仁和寺に所蔵されている古文書の翻刻と共に門跡寺院の所以となる御室を研究することにある。その方法として、第三代の御室である覚行法親王に焦点を当てる。その背景として、覚行以前の御室には、宇多法皇、性信(大御室)がいるが、覚行は法親王となった最初の人物であり、御室の地位を飛躍的に高めた人物であったこと、そしてこのような人物でありながら、これまで専論が出されていなかった研究状況がある。そして二年という研究期間の問題を考慮に入れ、更には今後の研究見通しを立てるためにも最も適当な方法と考えたからである。さて、本研究に入る前段階として、本研究代表者は、院政期における仁和寺周辺の歴史的環境について『輔仁親王伝-花園山荘をめぐって-(『古代学研究所紀要』第7輯、1998年)、そして今回の研究に直接結び付く『中御室覚行親王伝-仁和寺御室の伝記的研究-』(『仁和寺研究』第1輯、1999年)を発表。本研究においては、仁和寺所蔵の『中御室御灌頂記』を写真と対応した形での翻刻を試みる。これは『仁和寺研究』第2輯に掲載予定であるが、すでに初稿の校正を終えている。なお、仁和寺には同名の文書が二種類伝来しており、今回翻刻したものは、院政期の官人である大江匡房本の最古の古写本であるが、次年度においてはもう一本の写本の翻刻を試みたい。前者はすでに江戸時代の写本を底本としたものが活字化されているが、後者は未翻刻のものである。 仁和寺という大寺院を扱うに際しては、このような基礎的作業は必須のものであり、その積み重ねによって全体像が浮かび上がってくると信じるのである。
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