仁和寺の御協力を得、膨大な量に及ぶ当寺所蔵文書の内、第三代御室・覚行法親王(中御室)の御灌頂記を中心とした歴代御室の灌頂記を実見し研究を遂行。 平成12年度は、大江匡房筆録の『中御室御灌頂記』の写本翻刻、及び覚行法親王の伝記的研究、さらに、現在は残されていない覚行の日記『中御室御記』の逸文についての紹介を行った。'前者は『仁和寺研究』第二輯に、後者は所功博士の還暦記念論集『國書・逸文の研究』にそれぞれ掲載した。 平成13年度は、『中御室御灌頂記』(非匡房本)と共に、その他の灌頂記についても取り上げ、その成果は、『仁和寺研究』第三輯に掲載される。今回の御灌頂記の写本は前年度と異なり、筆録者不明のものであった。質量ともに前年度のものとは比較にならないほど見劣りのするものであるが、灌頂記全般の研究を進めてゆくうちに、仁和寺本とは性格の異なる金沢文庫所蔵の潅頂記について考える機会となった。そして、仁和寺で行われた御室の灌頂記がなぜ金沢文庫にも纏まって所蔵されるのか、またそれはなぜ仁和寺本と内容が異なるのかについての仮説を提示した。その結果、政治の実権を握った鎌倉が、宗教政策にも本格的に着手したことを示す象徴的な事例が、灌頂記の書写という行為に具現化されているとの結論を導くに至った。
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