本研究は、オスマン帝国の近代海軍・海運の形成過程を分析することにより、経済的植民地化とナショナリズムの台頭がオスマン帝国末期の社会・経済構造に及ぼした影響を考察するものである。本年度は昨年度にひきつづき「エスニシティ」をキーワードにいくつかのテーマを設定し史料の収集と整理・分析をおこなった。具体的には、(1)18世紀以後の海軍の組織的、技術的改革の動向、さらに19世紀以後のギリシアの独立運動に代表されるナショナリズム運動などが、オスマン海軍におけるムスリムと非ムスリムの役割にどのような影響をおよぼしたのか、(2)オスマン帝国末期の海軍および官営海運企業の人員構成にみられる黒海沿岸地方出身者の偏重の理由といった問題をとりあげた。 研究活動としては、夏期トルコ共和国で現地調査をおこなった。昨年にひきつづいてトルコ海運公社が所蔵するオスマン帝国時代の人事と給与関係の記録の収集を中心としたが、同時に刊行資料の購入や現地の研究者との交流もおこなった。 成果の公表としては、(1)の研究成果の一部を2004年2月に刊行した『オスマン帝国の近代と海軍』(山川出版社)の中で公表した。(2)のテーマについては、2003年5月11日日本中東学会・第19回年次大会において、「オスマン帝国末期の海運と黒海沿岸民-「トルコ海運」史料の分析を通して-」と題する発表をおこなった。
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