本研究成果報告書には、「日本現存朝鮮燕行録解題」と「燕行録と日本学研究」の二つの論文を収録する。 「日本現存朝鮮燕行録解題」は、日本国内に現存する燕行録の調査と収集を行い、それらが何年の燕行時の記録であるか、誰によって書かれたものかを考証し、さらに撰者略歴、旅程とともに簡単な内容紹介を加えたものである。今回の燕行録の所在調査によって、初めて日本に現存する燕行録の概要が明らかになった。本解題では合計33種の燕行録について紹介する。33種はすべて写本であり、うち26種あるいは27種のものは、世界のほかの図書館で異本の現存すら確認できないものであり、さらに5種は撰者の自蔵本である。韓国の林基中氏と共同編集した『燕行録全集日本所蔵編』という資料集とともに、本論文は燕行録、燕行使、中国・朝鮮相互認識について関心を寄せる世界の研究者に対して、確かな研究の基礎を提供するものである。 「燕行録と日本学研究」は2001年12月に韓国で開かれた国際会議「燕行録と東アジア研究」での報告である。この論文において、日本で現在盛んに行われている朝鮮通信使研究に見られる偏りを指摘し、19世紀前半における朝鮮通信使と朝鮮燕行使とを比較した場合、前者における日本・朝鮮間の人的交流の疎遠さに対して、後者における朝鮮・中国間の人的交流の親密さを指摘できることを明らかにした。
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