研究概要 |
本年度は、19世紀末〜20世紀初の史料を検討した結果、同時期のジャワ商業流通一般が以下の特徴を持つことを明らかにすることができた。1,流通は、基本的に近隣地域間で行われており、その連鎖によってジャワ全体の流通システムが成り立っていること。2,ただし、稲米、煙草、家畜、バティックなど、いくつかの商品は遠距離にわたって流通していること。3,地域を越えた流通の担い手は基本的に華人商人であるが、マドゥラ人商人、バウェアン商人、さらにクラワン商人などの現地人商人も、特定の商品について条件が整えば流通に参入していること。4,外島との商業関係は、北海岸地域で強いこと。 さらに、これらをふまえて19世紀末〜20世紀初めの稲米の地域間流通について詳細に検討した結果、以下のことが明らかになった。1,稲米は生産力の高い地域から低い地域へ流れるだけではなく、農業条件には恵まれているが多数の輸出向け農企業が存在する地帯へも向かっていること。2,流通はこの時期を通じて近隣地域間がもっとも盛んだが、(a)プリアンゲルから中ジャワ向け、(b)北岸の米所であるクワランやチェリボンから北岸諸地域向け移出のように遠距離にわたるものもあったこと。3,19世紀後半から本格化した鉄道建設は、(a)をはじめとする遠距離流通を出現させただけではなく、精米業を発展させ、それを通じて華人の稲米流通支配を一層押し進めたこと。4,しかし、(b)が在来のプラウ輸送によって担われ、なお稲の形での移出が大量であること、プリアンゲルでも精米所の生産する米は移出の一部にすぎなかったことに示されるように、在来の稲米流通は消滅しておらず、華人が稲米流通を完全に支配できたわけではなかったこと。 現在、これらをもとにして、北海岸地域に流通圏といえるだけのまとまりがあったか否かの検討を進めている。
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