本研究は、朝鮮王朝(李朝)時代の水運に関する基礎的データの収集・整理、およびそれらに基づいた実証的研究を通じて、当該時期における水運の具体的様相を明らかにし、もって、水運が当時の社会・経済に及ぼした影響を多角的に考察することを目的とした。具体的には、(1)官営の税穀船運機構である漕運制の制度・実態の解明、(2)浅薄所有者による水上活動の実態解明、の2点を主要な課題とした。 このうち(1)については、まず朝鮮王朝時代史研究の基本史料である『朝鮮王朝実録』から漕運関係記事を収集し、これをデジタルデータ化する作業を行った。その結果、朝鮮王朝時代の前半期に相当する『太祖実録』から『宣祖実録』まで約200年分の漕運関係記事原文をカードに採り終え、そのうちの『太祖実録』から『燕山君日記』までの約100年分については電算入力を完了した。後者は研究成果報告書に「『朝鮮王朝実録』漕運関係史料集1」として掲載した。また、朝鮮王朝時代の各種法典や朝鮮王朝後期の地方史料からも漕運関係記事の収集を行った。 次に(2)については、残存史料が少なく、史料収集作業は思ったほど進捗しなかったが、以前から進めている19世紀における済州島民の海上活動関係(およびそれにともなう海難、漂流・漂着関係)史料を『漂人領来謄録』等から収集した。さらに、朝鮮王朝後期における済州島民の漂流・漂着事例に関連して、漂流民による漂着先での出身地詐称行動を考察し、その成果を論文で発表した(「朝鮮後期済州島漂流民の出身地詐称」『朝鮮史研究会論文集』40、2002年10月)。 水運史研究は朝鮮王朝時代の経済史研究のなかでは立ち後れの目立つ分野の一つであり、今後とも各種文献からの関連史料収集を進めるとともに、それらに基づいた実証的研究を深めていきたい。
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