本年度は、「日記、時政記史料から見た宋代政治研究」の研究課題に基づき、次のような研究活動を行った。(1)『続資治通鑑長編』その他の私撰の編年体史料の中に残されている時政記、日記史料を調査した。また、調査に当たっては、本年度予算で購入した『文淵閣 四庫全書 電子版』を活用し、『四庫全書』に残されている日記史料を網羅的に調べ上げた。(2)この調査並びに解析の中間的成果は、2000年8月、カナダ・モントリオールで開催された第36回国際アジア・北アフリカ会議にて発表した。また、報告内容を加筆訂正したものを『東洋史研究』59-4号に掲載する予定である。 以上の研究成果をまとめれば次の通りとなる。(1)宋代の官撰史料の編纂過程は、起居注・時政記をもとに日暦が編纂され、日暦をもとに実録が編纂され、実録をもとに国史が編纂されるというものである。これらの史料の内、宰執が皇帝との政治的会話を輪番で記録した時政記が最も重要な位置を占めた。(2)宰執は時政記と共に私的な政治日記を同時に付けていた。この日記は、時政記と類似した内容を持ち、皇帝との政治的会話を主たる内容とした。これらの日記は、時政記を付けるための史料となると共に、政治の備忘録としての役割を果たした。また、政治日記は宰執に限らず、多くの高官が付けていたことが確認される。これは実録を編纂するなどの際に、政府への提出を求められたことと関係があると思われる。(3)時政記、日記に限らず、当時の官撰史料に用いられた史料群は、当時の政治構造と密接に関係している。宋代は、官僚が直接、皇帝に意見を申し上げる「対」と呼ばれる政治システムが発達した時代である。このシステムの発達は、皇帝と官僚との政治的会話を残すことに大きな意味を持たせることとなり、そのことが宋代に特徴的に現れる、時政記、日記に代表される政治史料群を生むこととなったと考えられる。
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