初年度は、まずトルコ系遊牧民ヤージュ・ベディルに関する、イスタンブル総理府オスマン古文書局所蔵の諸文書を選定する作業を開始した。この作業は継続中であるが、これまでに選定された文書の解読および分析のため、2001年1月22日から2月3日にかけて海外共同研究者であるイスタンブル大学文学部イルハン・シャーヒン教授を招聘した。とくに18世紀の検地帳および財政文書、19世紀の資産台帳を共同で解読し、より詳細な分析を試みるためにデータ入力作業をおこなった。この結果、「ヤージュ・ベディル」という名称の歴史的変遷過程や18世紀における彼らの遊牧による行動範囲が史料から裏付けられた。さらには19世紀のバルケスィル地方におけるヤージュ・ベディルのうちスンドゥルグ郡に帰属する戸数211戸の第1グループと、ビガディチ郡に帰属する戸数36戸の第2グループとの存在が確認された。このうち第1グループは、不動産をもたず、馬、羊やラクダなどの家畜を多く所有していることから、遊牧生活を営むと同時に内陸交易にも従事していたことが推察される。これに対して第2グループは、ラクダをまったく所有しておらず主として乳牛や乳羊を所有しており、またなかには耕作地やぶどう畑を保有する者もいることから、内陸交易には従事せず、酪農を主体として徐々に定住化にむかっていることが推察された。本研究の最終成果はトルコ語による研究書としてまとめる予定であるが、そのための準備作業として現段階までに整理された史料に基づく論文の執筆が開始された。
|