(1)本年度は、『史記』、『漢書』、『前漢紀』など文献資料の整理がすべて完了しており、前漢中期と後期における中央・地方の官員(約600名)を全部抽出し、個人履歴書の形式でそのデータができた。それに前漢前期の官僚履歴データを付け加え、200年に亘る前漢王朝における官僚層の分析研究に関する基本データ、すなわち『前漢王朝主要官僚類型表』が出来上がった。 (2)『前漢王朝主要官僚類型表』に基づいて前漢王朝の各官僚集団の興亡変化について追跡的考察をおこない、それを通して前漢王朝の政局、政治文化、支配層および主流社会の変換に関する全体像を描写することにした。その結果によって、前漢王朝において、その政治と主流社会を導いて支えているのは、軍吏(軍層を含む)、法吏、儒吏および宗親という四大官僚集団であると分かった。さらに四大官僚集団の興亡離合のプロセスを通してみると、前漢王朝における二つの重要な変化が現れてくる。それは、1尚功型政治と社会から尚法型政治と社会への転換、2尚法型政治と社会から尚儒型政治と社会への転換ということである。 (3)研究協力者の梅原は、漢代司法関係の職務で最高かつ最も重要な「廷尉」着目し、その経歴、昇進過程、人間関係など詳細に調べ上げた。ところが研究の前段階で、特に景帝から武帝時代にかけ、法吏の代表といってもよい、「酷吏」と呼ばれる集団の発生に注意を惹かれた。そこで、従来の研究も参考にしつつ、この問題を追及すると、この時期の「酷吏」は、他の時代と違い、漢王朝が皇帝支配を進めるために、その有力な推進者として役割を果たしていたことが明らかになった。そうした成果をふまえ、次の廷尉の問題に取り組もうと考えている。
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