まず、基礎的な作業として、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパ社会がどのような社会変動を経験したのかを分析している社会史的研究文献の収集を続行し、最近の社会史研究の研究動向をつかんだ。 さらに、昨年度の予備調査を踏まえて、以下のような史料をドイツにおいて収集した。(1)手工業的外科医の資格・試験制度などの変遷を明らかにする史料。(2)医師・患者関係が明らかになるような、医学生や若手医師向けの医院経営の指南書。(3)自然療法民間人団体、ホメオパティー民間人団体、ドイツ医師会連合などの機関誌に掲載された、医師に対する民間人の意識、無資格治療師による治療の実態、無資格治療師の質を向上させるための方策などを明らかにする記事。(4)種痘禍が発止した際の医師の対応を示す内務省文書。 これらの史料の詳細な分析には、なお時間を要するが、とりわけ、(2)、(3)、(4)の史料から、当時の医・患者関係を具体的に明らかにすることができるという感触をつかんでいる。すなわち、必ずしも近代医学が決定的な治療効果を発揮していなかったにもかかわらず、これを過信し、患者に対して高圧的な態度をとり続ける医師が存在し、こうした状況に不満を持つ患者の中に、オルタナティブ医療の無資格治療師に好感を持つ者が少なからずいたのである。 ところで、ドイツでの調査から帰国した後、ドイツでホメオパティー治療を実際に学んだ医師が日本にもいることを知り、この医師から、ホメオパティー治療の実際について教示を受けた。彼が1950年代に、ドイツにおけるホメオパティー医養成の中心的な役割を担っていたシュトゥットガルト・ボッシュ病院で研修を受けていたことがわかったのであるが、同病院の文書館には、当時の研修についての詳細な記録が残されておらず、この医師からの聞き取り調査は、当時の研修制度の実態を示す貴重な記録となると考えられた。そのため、年度の後半は、本来の研究課題と並行して、ボッシュ病院のホメオパティー研修制度についての聞き取り調査を行った。また、これと関連して、明治以降の日本における自然療法、オルタナティブ医療の展開に関する史料を収集した。
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