フランス革命期におこった宣誓をめぐる混乱と非キリスト教化運動は、19世紀以降の政治や文化のありかたに深刻な影響を与えた大事件である。すでに総合的な研究があり、二つの出来事が革命前の日常生活を含む文化的前提や民衆心性と密接な関わりがあったことがわかっている。特にカトリック聖職者と教区民との関係が重要で、社会的結合、政治、文化のすべてがここに集約されていたといってもよい。両者の関係は革命になって法的・制度的に大きく変化した。 本研究はこの関係の変化に着目し、聖職者の結婚問題に焦点を絞った。独身を義務付けられていたはずの聖職者が革命になると少しずつ結婚し始め、運動期には多数の聖職者が無理やり結婚させられる事態となった。この現象を分析することで、革命期の価値観とその変化を照らし出すことができると考えた。先行研究では、聖職者の結婚現象にも著しい地域差があることから、地域による文化の違いを考えるうえでも重要であると考えた。 本研究は、まず国民議会での討議と決定をたどった。その結果、聖職者の独身、そこから生まれる神秘性、聖性が平等という理念とぶつかり、宗教信仰やさまざまな差異を捨象して生まれた平等な市民という概念に反すると理解されるその過程を明らかにできた。ただし、この問題にどう向き合うかは一様ではなく、さまざまな態度が見られた。非キリスト教化運動もそのひとつである。 聖職者の結婚という現象の地域的差異については、地理的に比較的小さな空間を扱った修士論文や博士論文を参考にした。それによれば、聖職者の結婚は必ずしも強制とばかりはいえない。また、聖職者のなかには聖職者の結婚を正当化するものもいた。ひとつの観点だけでこの問題を解釈することはできないように思われる。かなり複雑でデリケートな問題である。革命期の政治文化や民衆文化との関係を丹念に分析する必要がある。
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