研究概要 |
本研究の最大の成果は、平成13年に広島大学に提出し同年12月に審査を受けた博士学位請求論文に若干の加筆、修正を行い出版した『近代フランス農村の変貌-アソシアシオンの社会史-』(刀水書房、平成14年2月)である。この著作は、研究代表者が長年に亘って取り組んできた近代フランス農村社会史研究をひとまず集大成したものであるが、本研究の課題に即して農村杜会への民主制の浸透、定着化を跡づけようとする関心を強く反映したものでもあった。とくにアソシアシオンassociationが果たした多様な役割を解明した。研究期間の後半には、本書が残した課題を検証し、新たな研究に着手した。新たに浮かび上がった問題は大きく分けて二つある。まず、(1)農業組合であれ読書サークルであれ、農村民衆が多様なアソシアシオンに主体的に参加する際の契機や意識が十分に明らかにされなかったという点がある。もう一点は、(2)アソシアシオンとコルポラシオンcorporationとの組織上、概念上の区別、民主制とのかかわりを再考することである。いずれも、農村社会への市民的規範の浸透を解明する際に欠かせない論点である。 これらの課題に応えるためにひとまず13年11月の広島史学研究会大会報告に際し、E.フルニエール、R.ドゥ・ラ・トゥール・デュ・パンら20世紀初頭の代表的なアソシアシオン論を参照し、(2)の問題に迫るための視点を提示した。また(1)の問題にアプローチするために、世紀転換期から20世紀前半にかけて活躍した農民作家E.ギヨマンの生涯と社会的な活動に着目した。そして彼の文学作品、農業組合運動、そしてとくに手紙の交換によるソシアビリテ(社会的結合と交渉)の形成に関する文献・資料を収集し、分析してきた。平成15年4月の比較教育社会史研究会大会では,その成果の一端を発表した。
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