昨年度に引き続き、シドニウス・アポリナーリスの詩歌集・書簡集の読み直しを、受取人に関するプロソポグラフィッシュな整理と共に進めている。同時に、それらの著作の背景となっている5世紀ガリアの政治史および教会史についても、近年の研究の深化によって得られた新しい知見を摂取しつつ再構成を進めている。また、昨年度の研究で得られたシドニウスの書簡集第7巻の構成に関する仮説を検証するため、同巻第7書簡ほか4通の書簡の受取人であるマルセイユ司教グラエクスグラエクスおよび他の二人の司教と共に西ゴートへのオーヴェルニュ割譲交渉に関わったリエ司教ファウストゥス、おそらく469年のガリア道長官でシドニウスから5通の書簡を受け取っているマグヌス・フェリクスといった人物の間で交わされた、シドニウス以外の書簡も検討し始めたが、アリウス派問題だけではなく半ペラギウス主義やネストリウス主義の問題も関わっていて、まだ十分に整理しきれていないのが実情である。ゲルマン諸王国の成立、特に西ゴートの支配圏拡大が当時のガリア社会全般、セナトール貴族層、セナトール貴族から転じた所謂ガロ・ロマン司教層に与えたインパクトについては、特にオーヴェルニュ割譲以後のシドニウスの書簡を中心に再考を進めている。なお、本年度の研究費を使用して夏期休暇中にイギリスで研究を進めた際には、主に国内では完備していない考古学調査の成果の摂取に努めたほか、J.ハリーズがシドニウスに関する近著で呈示した、シドニウスとマグヌス・フェリクスの関係についての仮説をめぐって、本人と意見交換することが出来た。
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