「研究目的・実施計画書」に基づいて、2001年度は主として、旧ドイツ民主共和国(=東ドイツ)において女性の就労と家事労働を巡って、1960年代にどのような議論が展開されてきたのかという問題を研究し、そこから以下のような成果を得た。 この時期に東ドイツは労働力不足が深刻化し、家庭にいる女性を生産現場に引き出すことが至上命題となっていた。だが、東ドイツでそれまで一貫してそうであったように、家庭と職場での男女の役割分担を自明のものとしている限り、このことは一方では、就労することによって生じる女性の2重-多重負担をいかにして解消するかという問題を、他方では、どのようにして男性に女性の就労を受け入れさせるかという問題を提起することになった。性による役割分担という伝統的な観念を放棄するならば、こうした問題も自ずから消滅するが、社会主義統一党はドイツ共産党以来の伝統に忠実に、女性の就労=女性の社会的解放ととらえ、性による役割分担に基づく女性の多重負担を原理的に問題とすることがなかった。ただ、女性の側に現実に生じる多重負担を解消し、また女性=妻の就労に対する男性=夫の不満を和らげるべく、家事の合理化、消費生活の高度化という解決策を示した。即ち、家事のための様々な道具の普及、調理済み食品やインスタント食品の利用に活路を求めたのである。だが、このことは労働力不足と消費財生産の停滞に悩む東ドイツにとっては、実現不可能な道であった。こうして、女性の就労と消費生活の高度化を結びつけようとした東ドイツの政策は、かえって、この国の行き詰まりを準備することになったのである。
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