本年度は研究完成年度を翌年にひかえ、最終的な調査を行い、また一部その成果を学会報告という形で発表した。本研究の特徴として、ギリシアの歴史を通時的に考察するということがあり、本年度は特に、ギリシアのポリス世界の成立と、ローマ帝国におけるギリシア人の歴史認識を考察対象とした。 まずポリスの成立に関して、前10〜8世紀にかけてのギリシアの状況を考古学的な成果を摂取して、分析した。従来のアテナイ発信の文献史料や、あるいはローマ期の好古的な叙述などに見られるその認識との相違を解明すべく諸史料や考古学からの報告、あるいは近年の最新成果などに目を向けた。それとともに東方からの影響なども視野に入れ、東京大学の桜井万里子教授を中心とする研究(科学研究費補助金、基盤研究(B)(2)「ギリシアにおけるポリスの形成と紀元前8世紀の東地中海世界」(課題番号14310177)平成14〜16年度)に研究協力の形で参加し、多くの知見を得た。これらの結果、アルカディアはギリシアでは最も古い民族との認識がすでにヘロドトスに現れ、それが後の通念になっている点、また実際、方言などがキュプロスのそれと類似している点にも注目して、成立期の実態に迫る展望を持つに至った。この成果の一部は平成15年度の西洋史学会のシンポジウム、「ポリスのインヴェンション」で報告する予定である。 その起源を探る上で従来、パウサニアスを筆頭にローマ期の著述家の情報に多くを頼る場合が多かった。しかしローマ期の叙述には、当時の彼らのおかれた状況やそこから生じる自ら歴史認識に多大な影響を受けていることは明らかである。それゆえローマ期のギリシア人が自らの過去をいかに捉えていたかを明らかにしない限り、これらの叙述をそのまま利用することは危険である。そこで平成14年11月16日に西洋史研究会(於東北大学)で「ギリシア「古典期」の創造-ローマ帝政期におけるギリシア人の歴史認識-」と題する報告を行い、その状況を分析した。 また平成15年3月16日〜30日にかけてギリシアのアルカディアを中心としたペロポネソスで昨年に続き調査を実施し、神殿を中心とした各地のトポロジーの把握に努め、同時に多くの映像を確保した。またイギリスの古典学研究所付属図書館で文献などを調査し、完成報告の必要資料を得た。
|