今年度は、時空間の変容の問題を歴史的に跡づけるために、ドイツにおける記念碑の変遷を追った。具体的には、ドイツにて記念碑に関する資料と文献を収集し、記念碑の撮影をおこなった。現在、その成果をデータ処理し、整理しているが、その一部として、有斐閣から出版された共著『ドイツ社会史』にて「ナショナリティ」の項目を執筆し、記念碑だけでなく、国民的祝祭、国民歌および国歌、国旗、国籍法、地理教科書などをテクストとして分析することによって、ナショナルな時空間の歴史的変遷の問題を論じた。また、『立命館言語文化研究』にて公表した「ホロコーストの記憶と新しい美学」では、80年代に試みられたホロコーストの記憶を新たな美学によって表象-記憶しようとする新たな記念碑の取り組みを紹介した。さらに、今年の4月に東京大学出版会より刊行される共著『マイノリティと社会構造』に「レイシズムとその社会的背景」と題して寄稿した論文にて、近年における極右勢力の動向を時空間の変容の問題から論じた。ほぼ同時期に柏書房より近刊される『ナチズムのなかの二○世紀』においても「ナチズムとそして二〇世紀を記億するということ」と題した寄稿論文においては、戦後におけるドイツ人の20世紀とナチズムの記億の構造を分析し、その構造と変遷が記念碑においてどのように表現されているのかを論じた。そこではオイルショック以後の社会構造の変化がナチズムとホロコーストの記憶にとって重要な役割を果たしていることを明らかにした。現在は、歴史的な枠組みをさらに広げて、ドイツ近代社会における記念碑の歴史的変遷とその美学的形象化の問題を、芸術表象論とかかわらせながら、時空間の変容の問題として分析する論文を晃洋書房から刊行される共著への寄稿論文として執筆中である。
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