三年度にわたって、時空間の変容の問題を歴史的に跡づけるために、ドイツにおける記念碑の変遷を追った。具体的には、ドイツにて記念碑に関する資料と文献を収集し、記念碑の撮影をおこなった。その成果として、有斐閣から出版された共著『ドイツ社会史』にて「ナショナリティ」の項目を執筆し、記念碑だけでなく、国民的祝祭、国民歌および国歌、国旗、国籍法、地理教科書などをテクストとして分析することによって、ナショナルな時空間の歴史的変遷の問題を論じた。また、『立命館言語文化研究』にて公表した「ホロコーストの記憶と新しい美学」では、80年代に試みられたホロコーストの記憶を新たな美学によって表象-記億しようとする新たな記念碑の取り組みを紹介した。さらに、2002年の4月に東京大学出版会より刊行された共著『マイノリティと社会構造』に「レイシズムとその社会的背景」と題して寄稿した論文にて、近年における極右勢力の動向を時空間の変容の問題から論じた。ほぼ同時期に柏書房より刊行された『ナチズムのなかの二〇世紀』における「ナチズムを、そして二〇世紀を記憶するということ」と題した寄稿論文においては、戦後におけるドイツ人の20世紀とナチズムの記憶の構造を分析し、その構造と変遷が記念碑においてどのように表現されているのかを論じた。そこではオイルショック以後の社会構造の変化がナチシムとホロコーストの記憶にとって重要な役割を果たしていることを明らかにした。立命館大学人文科学研究所編『現代社会とナショナル・アイデンティティ』に寄稿した「ナショナルな音楽・越境する音楽」では音楽と時空間の関連を近代化を問題としながら分析した。『ドイツ研究』35号に寄稿した「ドイツ人の脱ナショナル・アイデンティティ」では社会心理学的な分析を通して、ドイツ人のナショナル・アイデンティティの変容を分析した。また、2003年に刊行された『ナショナル・アイデンティティ論の現在』に寄せた論文では、ドイツ近代社会における記念碑の歴史的変遷とその美学的形象化の問題を、芸術表象論とかかわらせながら、時空間の変容の問題として分析してみた。
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