本研究は、伝統的な労働様式が維持できなくなり、労働形態や労働者が近代化される過程で、それが近代的なジェンダー規範とどう関係しているのか、つまり労働や労働力のジェンダー化の過程と表象について日本とドイツの比較研究を通じて明らかにしようとするものである。 本年度は、とくに2つの事柄を中心に研究を進めた。1つは、方法論に関する問題である。本研究はジェンダーの歴史学にもとづいて研究を進めているが、これが従来の女性史とどう違うのか、まだこの違いがドイツでどう認識されているかを考察した。ジェンダーの歴史学では、女性の実態の描写ではなく、男女の差異化がいかなる過程で行われるのかを重視する。 これに関連して2つめに、「男性の労働/女性の労働」の構築およびその表象について考察した。家内工業期および工場での機械生産への移行期における日独の織物工業を比較した結果、同じ種類の労働でも、日本は女性、ドイツは男性という担い手のジェンダーによって、その労働の捉え方が異り、その労働に与えられる意味合いが違っていることが明らかになった。つまり日本では「農家の嫁の労働」、ドイツでは「職人の労働」という性格を帯び、織物労働はジェンダー化され、その労働に関する社会的な評価も異なっていた。
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