研究概要 |
古代民主政とアカウンタビリティーの研究は、これまでアカンタビリティーを体現する制度や思想を考察してきた。しかし、古代社会に卓越する互酬性は、行動原理としてはアカウンタビリティーの思想や制度と併存するものではあり得ない。 同時に、古代民主政におけるアカウンタビリティーの問題は、執務審査官制度や弾劾裁判制度にとどまらず、それらを支える政治的社会的基盤の整備、比例代表制の問題でもある。両者はペアとして考察される必要がある。 アカウンタビリティー研究の2つの問題点のうち、今年度は前者の互酬性との関係をとりあげ、アカウンタビリティーの思想や制度が、互酬性の支配するアテナイ民主政下で互酬性的行動様式とどう矛盾し、どう併存したのかを、主にアテナイとスパルタの外交弁論の分析を通じて明らかにした。 アテナイ人の日常生活は、当時のすべてのギリシア人と同様に、互酬的人間関係の中で営まれてした。しかし、民主政が成立したとき、国際的にも(特にスパルタが互酬的外交政策をとるとき)国内的にも(好意のシンボルとしての贈物が、同じ言葉で賄賂を意味するとき)互酬性は吟味の対象になり、執務審査などアカウンタビリティーの思想と制度を発展させた。この思想や制度は、まず外交関係の必要から生じ、やがて互酬的行動様式を公的生活の上で、部分的に否定する傾向を生んだ。しかし、アテナイ人の日常生活そのものは互酬性の網の目の只中にあったため、一貫性を持つことはなく、公私の区別という考え方によって、両者は表面的には併存できた。 今年度は、以上の成果を広島西洋史学研究大会で口頭発表した。また「立志舘大学紀要」(第3号,2002. 7)に論文発表する予定である。
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