3年間に亘る本研究の初年度として、本年度は個々の遺跡において検出された埋葬の基礎的データの集成に主眼をおき、作業・研究を進めてきた。埋葬例がまとまってみられるようになる続旧石器時代に相当するナトゥーフ期のものからデータベース化の作業に取りかかっており、現在も尚継続中である。その結果、これまでのところナトゥーフ期にはイェリコ遺跡をはじめとして比較的規模の大きな遺跡では多くの埋葬例が認められたのに対して、小規模遺跡ではほとんど埋葬が認められないなどの偏りがあることが明らかになった。そして規模の大きな遺跡からは成人の埋葬も集落内から数多く確認されていることも分かり、日常の生活の場と一線を画する形での墓地の形成は、この時期にはまだおこなわれていなかったものと考えられる。また自ら調査に携わり一次資料を得ることのできたシリア・アラブ共和国のテル・アイン・エル・ケルク遺跡では、実際に30例近い埋葬例を扱うことができた。これは、新石器時代の遺跡であるが、形質人類学者との共同研究により、この遺跡から出土した埋葬の多くが、生後6ヶ月未満の乳児のものであることが明らかになった。その多くは、住居の床下埋葬であったものと考えられる。これに対し成人の埋葬例は、皆無とは言えないまでもごく僅かであった。これまで墓地といえるものが確認されているのは、新石器時代に後続するハラフ期になってからであるが、新石器時代には既に墓地が集落外に成立していた高いものと考えられる。集落の調査ばかりでなく、周辺の調査もこれからは欠かせないものとなっていくであろう。 次年度は、引き続き埋葬事例のデータベース化を新石器時代を対象としておこない、墓域がナトゥーフ期から新石器時代のどの時点で成立した可能性が高いのかデータの分析を進めながら明らかにしていきたい。
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