3年間に亘る本研究の2年目として、本年度も昨年度に引き続き個々の遺跡において検出された埋葬の基礎的データの集成に主眼をおき、作業・研究を進めてきた。具体的には埋葬例がまとまってみられるようになる続旧石器時代のナトゥーフ期のものから土器新石器時代に至までの資料をデータベース化する作業をおこなった。その結果、ナトゥーフ期にはイエリコ遺跡をはじめとして比較的規模の大きな遺跡では多くの埋葬例が認められたのに対して、小規模遺跡ではほとんど埋葬が検出されないなどの偏りがみられることが明らかになった。そして規模の大きな遺跡からは成人の埋葬も集落内から数多く確認され、日常の生活の場と一線を画する形での墓地の形成は、この時期にはまだおこなわれていなかったことも明確になった。また頭蓋骨を取り外す特異な埋葬様式は、先土器新石器時代に盛行するが、ナトゥーフ期において既にその例が見られることも明らかになった。プラスター塗りの頭蓋骨やプラスター製塑像なども含め、祖先崇拝といわれる資料の検討も併せておこなっている。また自ら調査に携わり一次資料を得ることのできたシリア・アラブ共和国のテル・アイン・エル・ケルク遺跡では、実際に50例近い埋葬例を扱うことができた。形質人類学者との共同研究により、この遺跡から出土した埋葬の多くが、生後6ヶ月未満の乳児のものであることも明らかになっている。これに対し成人の埋葬例は、ごく僅かであった。これまで墓地といえるものが確認されているのは、新石器時代に後続するハラフ期になってからであるが、新石器時代には既に墓地が集落外に成立していた可能性が高いものと考えられる。現在テル・アイン・エル・ケルク遺跡と同時期の遺跡についての資料を集成しているが、基本的には似たような様相にあったことが明らかになってきた。
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