3年間に亘る本研究の最終年度に当たる本年度は、昨年度までに集成をおこなった個々の遺跡から検出された埋葬の基礎的データの分析に主眼をおき、作業・研究を進めた。具体的には、まず自ら調査に携わり一次資料を得ることのできたシリア・アラブ共和国のテル・アイン・エル・ケルク遺跡から検出された埋葬の分析をおこなった。2002年までに53例に及ぶ埋葬事例が確認され、埋葬姿勢・頭位方向・副葬品の有無・埋葬の空間的分布などの項目に注目しながら新石器時代の集落内埋葬の実態について検討をおこなった。形質人類学者の分析結果を参照しながら被葬者の年齢・性別を分析したところ、圧倒的多数が6歳までの乳児や幼児のものであることが確認できた。成人の埋葬例も皆無ではなかったが、例外的なものであった。埋葬姿勢については側臥屈葬が一般的で、頭位方向については顕著な傾向を見いだすことはできなかった。またテル・アイン・エル・ケルク遺跡は、先土器新石器時代から土器新石器時代にかけて長期に亘って集落が営まれており、埋葬に時期的な変化がみられるかどうかも検討した。この作業と並行して土器新石器時代の次の時期に当たるハラフ期の埋葬事例についての分析もおこなった。ハラフ期にはヤリムテペI号丘において集落外に墓域が形成されていたことが明らかになっており、被葬者は成人が中心で墓の形式や埋葬姿勢・頭位方向は斉一性が高いことが確認されている。これに対して集落内で検出された埋葬は、乳児・幼児が中心で、火葬墓や頭蓋埋葬が認められるなど多様であることが明らかになった。土器新石器時代の墓地はまだ検出されていないが、テル・アイン・エル・ケルク遺跡で明らかになったような集落内での埋葬の在り方は、ハラフ期のものなどと比較すると、この時期に既に集落外に墓域が形成されていたことを示しているものと考えられる。
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