本研究最終年度にあたる今年度は、前方後円墳の成立過程における東部瀬戸内地域の重要性を実証すべく、次の諸点項目にかんする分析検討を実施した。1.先年度まで数箇所にわたって実施した古墳および墳丘墓にかんする墳丘測量調査成果のとりまとめと類例調査および資料化、2.徳島県下における積石塚の構造や初現年代、および系譜関係の追求、3.竪穴式石槨の型式学的分類と系譜関係の追求、4.埋葬頭位における東西方位指向の度合いや墳丘主軸との関係を軸にした小地域性の解明、5.四国地域特有の前方後円墳型式(墳丘規格)の確定、といった5項目である。 その結果、1.については各古墳および墳丘墓の築造年代の概要を把握し、徳島県域における前方後円墳の築造動向の中に位置づけることができ、本地域の当該時期における基本資料の提供に貢献することとなった。2.の項目については、瀬戸内海沿岸部における分布の偏在性を明らかにし、本要素と相関関係を有する特殊な埋葬施設とともに、播磨地域と徳島県域との相互交流を裏付ける要素として評価可能であることを示した。3.については西日本各地の実状との比較を行った結果、本要素は、北部九州地域と東四国地域との密接な交流関係を証明しうる要素であることが判明した。4.については、徳島県域の再検討を実施した結果、従来の理解には修正が必要であることと、本要素においても播磨地域との類似性が指摘できることが解明された。5.については、不確定ながら、徳島県域と播磨地域との間で共有される築造規格が存在することと、この共有関係は畿内中枢を媒介せずに成立していることを把握できた。こうした作業の結果、所期の目的は果たせたことと思う。 以上の研究成果については、その一部を日本考古学協会橿原大会において発表したほか、神奈川県で開催された公開シンポジウムにて発表をおこなった。またこれらの成果をとりまとめた研究成果報告書を刊行中である。
|