1.生活様式的要素のうち、古墳時代中期になって新規に出現するもの、すなわち大型の甑形土器、造り付け竈、模倣坏、黒色処理技法に注目し、九州本島についてその出現と普及の過程を明らかにした(「研究発表」の1・2番目)。とくに、これまでほとんど検討されてこなかった模倣坏や黒色処理技法の九州本島における出現と地域性が明らかになった点は非常に重要である。このことは、私がこれを発表したシンポジウムの成果に追うところが大きいが、私も佐賀県地域を事例として模倣坏の出現時期を明らかにし、またその分布の南限を示した。そして、九州本島と中四国・近畿地方あるいは東日本とを比較し、古墳時代中期以降になると生活様式的側面においても中心・周辺関係が発生したと結論づけた。この視点は、朝鮮半島系渡来文化と生活様式的側面、そして古墳動向に代表される政治史的側面の比較研究に大きく寄与すると考えている。 2.朝鮮半島諸地域や中国王朝との関係を主軸におき、古墳時代における日本列島の政治的発展過程について素描した(「研究発表」の3番目)。ここで強調した点は、倭の中央政権の対朝鮮半島交渉における目的が、古墳時代中期と後期では異なっていたという推論である。すなわち、中期においては経済活動にかかわるもの-須恵器や鉄器製作技術など-を、後期においては精神活動的意味合いを包含するもの-横穴式石室など-を重視し、朝鮮半島系文化あるいは文物を受容していたとみた。 3.昨年度から継続してきた熊本県宇土半島基部地域における前期古墳動向の検討にかんして、現段階の結論を出し、首長系譜変動の過程を描いた(「研究発表」の4番目)。 4.熊本県植木町所在古墳の調査を開始した(「研究発表」の図書)。これは古墳時代中期における首長系譜変動の実証的研究であり、今後へ継続していく予定の調査である。
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