本年度は十勝太平洋岸の竪穴住居の試掘調査と青森県津軽地方で11世紀と思われる鉄関連炉の発掘調査を実施した。 昨年予備調査を行った北海道十勝の南部、大平洋岸地域の擦文時代の竪穴住居群のうち、分布調査の結果から遺跡群の南端部に位置する浜大樹2遺跡の竪穴群を発掘することにした。ここは未踏調査地で周囲の環境は海岸段丘上の牧草地、孤立地帯なため発掘環境は困難な場所であるが、竪穴の分布範囲を確認する必要があった。将来の継続調査を見通して発掘可能な住居址を1軒選択し、その位置を含む範囲で測量調査を行い、グリッド設定をした。発掘した竪穴はかなり大型の住居であり、窪地面積が広く、深いため今年度は南北の試掘トレンチを入れるにとどまった。出土遺物は古手の擦文土器の底部が出土した。さらに今回の調査中、近くからオホーツク土器片が採集された。近年千歳市から完形のオホーツク式土器が出土し、オホーツク文化の道内分布域が再検討されており、興味深い資料である。当地の竪穴住居群の中にも、深い竪穴があり、これが当地の擦文の住居の特徴なのか、又はオホーツク文化の住居も混在しているのか検討の必要がある。住居内炭化物の年代測定を依頼してある。 東北地方の調査では、青森県市浦村の唐川城跡で鉄関連炉を発掘調査した.鉄関連炉が発見された唐川城跡は、津軽地方の北部に位置し、津軽平野を貫流する岩木川の河口にある十三湖の北側の山丘上に立地する。十三湖は日本海沿岸の海上交易や岩木川水系の背後にある平野部を考慮すると、交易の拠点として重要な位置にある。北海道への鉄製品や鉄技術の流入の問題で、鉄関連の遺跡から擦文土器が出土していることも注目でき、今回も擦文土器片が出土した。北海道への鉄製品や鉄関連技術の伝播は擦文文化期において鉄製品が増加することから10世紀頃と考えられているが、この時期の東北地方北部との文化的接触の実体を明らかにするためには、どうしても東北地方北部の鉄生産の様相、鉄技術を解明する必要がある。津軽地方一帯は10世紀前後の鉄関連炉が多く発見され、古代の鉄生産を解明するのには重要な地域で、ここがつかめれば北海道への見通しもかなり掴めると確信した。鉄滓の分析、炭化物の分析、年代測定などを依頼してある。
|