本研究は、各種金属が確実に国産化されてくるとみられる7世紀以降の時期について、鉄に比較して解明の遅れている非鉄金属について、その産出地、製錬(精錬)技術、精製技術・熔解技術を明らかにし、古代手工業生産の基盤を支えていた非鉄金属地金の生産様式の解明に迫ろうとするものである。 対象とした非鉄金属は、金・銀・銅・鉛・錫・アンチモンである。そのうち金の産出地では、佐渡市の西三川地域の踏査を実施した。その結果、従来、古代産金の候補地として注意されてきた西三川川中流域以外に、同河口付近の高崎浜や田切須で古代産金関連遺構等が存する可能性のあることが明らかとなった。また、銀の産出地では、対馬の厳原町佐須地域の踏査を実施、その結果、近世以降の製錬跡とされる床谷地区において、古代に遡る須恵器片の散布を確認し、従来注目されてきた樫根地区以外に、床谷地区が古代に遡る産銀関連遺構が存する可能性のあることが判明した。 金属製錬等の問題では、銀の熔解坩堝と考えられている飛鳥池遺跡の坩堝について検討を進めた結果、灰吹炉が日本へ伝播する以前に、坩堝による灰吹のあった可能性が明らかとなった。銅の製・精錬等については、出土炉跡等を分類・分析した結果、(1)8世紀前半の円形竪炉の製錬炉が現在最古であること、(2)火床炉形式の炉は出現が遅れるかもしれないこと、(3)火床炉B・Cは都城の官営工房に深く関わること、(4)銅精錬・精製ないし鋳造石組炉は奈良時代後半から平安時代に出現するようであることなどが判明した。鉛製錬についても、発掘調査で出土した炉跡等を整理・分析した。その結果、鉛製錬には火床炉が用いられ、9世紀後半例が現在最古であるが、銅製錬炉等から類推して奈良時代末まで出現期が遡る可能性があることなどが判明した。
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