本年度は、年度当初の実施計画に基づき、以下のような調査・研究を行った。 (1)大阪摂津方言域に生育し、少なくとも両親のいずれかも同様である生え抜きの話者2組の自然談話を、次に述べる方法でDATおよびDVに収録した。 (2)話者は、お互いに親しい関係にある女子大学生二人である。約1ヶ月ほどの間をおき、初回は<同輩・親>の関係にある女子大学生同士、2回目は<目上・疎>の関係にある調査者で、それぞれ同じゲームをしてもらい、その際の談話を収録した。収録時間は1回約3時間である。 (3)上記の資料のすべてを文字化した。これらの調査および資料作成には、科研費の設備備品費、旅費、謝金を活用した。文字化の際には、昨年度の研究によって得られた文字化方式である「楽譜方式」を用いた。「楽譜方式」とは、実時間に添って展開する談話の姿をよくとらえ、話者交替が明確に視覚化される方式である。 (4)昨年度に同様の調査方法で行った東京方言談話と、今年度行った大阪方言談話については、全談話を文字化し、研究成果報告書として若干部数刊行した。両地域の談話分析から、次のことを明らかにした。 (5)いずれの方言においても、対人場面によって句の長さは変化をみせた。<同輩・親>の方が、<目上・疎>よりも、一句は短く発話される傾向にある。 (6)大阪方言談話の接続詞についていえば、方言特有語はほとんど出現せず、接続詞自体は共通語化していた。 (7)大阪方言において使用される共通語化した接続詞が、意味・機能的変異(気づかれにくい方言)を有しているかどうかは、まだ結論を得る段階にはない。それは、使用の個人差が、予想より大きかったことと関係している。 (8)よく使用される接続詞には、個人差がみられ、地域差については必ずしも明確に表れなかった。今後は、地域ごとに、同一調査表にもとづいた一定量の自然談話を採集することが必須の課題である。
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