日本における聖教類は、その大部分が寺院経蔵に所蔵のものであり、その生産・伝来の場としても本来的である。特に、本研究課題の主たる対象が平安時代書写の文献であるので、寺院の中でも近畿地方所在の文献に偏る。 そこで、京都・高山寺、仁和寺、大津・石山寺等の主要な寺院経蔵の聖教類の実地調査を行い、聖教類全体を見渡した上で、それぞれの文献の位置づけを試みた。 研究成果としては、各地寺院経蔵の蔵書の多様性を確認することができたとともに、聖教類の範疇化を行うための基礎作業を行うことができた。また、この調査と並行して、日本漢文の研究文献の収集を行い、その研究史を素描することもでき、改めて仏教系漢文の研究の立ち後れている事実を確認できた。 また、特に、表白文に注目し、聖教類全体の中での位置づけを古目録の部類を参考に行い得たことも成果の一つである。このような基礎作業を踏まえて、特に勧修寺法務寛信の聖教類に焦点を当てて、その事跡を追い、仏教界と貴族世界に跨る幅広い文献に通暁し文書作成を行っていた事実を明らかにし、日本漢文研究上重要な資料群であるとの見通しの下、高山寺経蔵の文献について、彼の関係する著述・書写・伝領の文献についてその目録を作成した。
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