平成13年度は、院政期の古記録文献のうち『明月記』を中心に調査を行なった。更に、東京大学史料編纂所へ行き、データーベースや写真帳・影印本等の調査、資料収集を行なった。また、「明月記研究会」の学術雑誌『明月記研究 記録と文学』に「『明月記』に見える「記録語」(その一)-斎木一馬氏の「記録語例解」との比較-」(2001年11月刊、続群書類従完成会編)を掲載することができた。まず、その点について述べる。 斎木一馬氏が「国語史料としての古記録の研究-記録語の例解-」の中で取り上げられた「記録語」二七語のうち、『明月記』に見える「記録語」は「有若亡・邂逅・響應(饗應)・計會・経廻・骨張・左道・松容・潤色・如在・如泥・對揚・侘〓・逐電・突鼻・飛行〔飛去〕・秘計・牢籠・〓弱・和讒」の二〇語である。このうち五つの意味を持つのが「牢籠」で、〔旧来の意味〕として「ひきこもる・姿を消す」「不都合・ふとどき」。〔院世末期のからの新たな意味]として「紛争」「荒廃」「行き詰まる」があり、『明月記』では、新旧の意味が混じって使用されている。このほか、四つの意味を持つのが「有若亡」「響應(饗應)」「對揚」、三つの意味を持つのが「秘計」、二つの意味を持つのが「左道」「和讒」、一つの意味で使用されているのが「邂逅」「計會」「経廻」「骨張」「如泥」「〓弱」の語である。複数の意味で使用される点が『明月記』を難解にしている。 このほか、『明月記』には「水駅(なにもしないで早々ことをやめる意)」「見来(出現する意)」、「不図(ふと)」「現形(あらわれる意)」などの記録語も見える。また病気の語として「寸白」「時行」「石痲」「雜熱」「發心地」などが見られる。異名として「陶化房(九条)」「南山(高野山)」「宸儀(天皇)」「皐陶(太理)」「射山(仙洞)」「槐門(大臣)」「椒房(皇后)」などが見える。唐名も「京兆(左京職)」「太理(檢非違使庁長官)」「拾遺(侍従)」「羽林(近衛府の中将・少将)」などが多数見える。
|