研究概要 |
明治期から大正初期の『太陽』誌上における文化現象を考察した。ある言葉やジャンルが、時代状況によって意味を変容させていく様相を捉え、文化やイデオロギーが自らを生産する複雑な過程に注目した。 1,戦争と「未来記」・・・・・・日清・日露戦争という政治状況の中で、博文館発行の雑誌における戦争未来記がいかなる変容を遂げたかを考察。日露戦争前、『太陽』で戦争未来記は盛んになるが、戦後は『少年世界』、『冒険世界』等に拠点を移し、アメリカを仮想敵にしたより虚構的な戦争未来記が書かれるようになる。同時に満州を舞台にした戦争未来記によって、青少年を中心とする読者に大陸への憧憬を与えることにもなった。 2,資本主義確立期の女性解放運動と『太陽』・・・・・・大正初期に『太陽』は「新しい女」特集を組む。そこでは「新しい女」に対する批判が主であり、平塚らいてうの婦人解放運動の企図とは離れて、「新しい女」が「脱線婦人」などの女性の負のイメージに重ねられている。一方「新しい女」は、当時の大衆消費社会の出現のなかでの消費者=労働者としての女性へのレッテルでもあり、例えば娯楽文化の文脈で、芸者・私娼達が「新しい女」という標語でもってファッションの流行を作り広めることになる。 3,『太陽』における朝鮮表象・・・・・・『太陽』と『朝鮮』(朝鮮で出版された日本語雑誌)の二誌を比較して、日清・日露戦争後の朝鮮人像の変遷を考察した。「悪徳」の根元としての朝鮮人像が拡大再生産される過程は、日本人の「美徳」を表象させる国民性論の形成の過程でもあった。また、併合を境に、「日本の中世的段階のような朝鮮」から「日本の明治維新後に相当する朝鮮」へ、国家についての表象も変化を見せる。朝鮮蔑視というイデオロギー成立過程の内実の複雑性を示す現象である。 以上の知見及び今までの研究成果は、6月に『明治期雑誌メディアにみる〈文学〉』としてまとめられた。また、毎月2回の研究例会、筑波大学以外の研究者を交えてのシンポジウム(平成13年3月3日)で研究成果の発表と討議を行っている。
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