本年度は、『風雅和歌集』の伝本の収集とその分析を主とし、合わせて同書の注釈的研究を行った。本年度の研究成果の中でも特筆すべきものは、京都女子大学附属図書館蔵谷山茂旧蔵本(略称谷山本)の本文的価値の確認である。これまで次田香澄氏の簡単な報告のみで詳しい分析のなされていなかった同本について、これが『風雅和歌集』伝本のうちで、少なくとも現在知られる限りにおいて最良の本文を有するものであることが、かなりの程度明らかになった。これまで最も良質の本文をもつとされてきた、宮内庁書陵部蔵吉田兼右本と比べても、その誤謬を正しうる箇所が少なくない。本研究においても、この谷山本を中心に据えて諸本の関係の考察を進め、最終的にはこれを底本として校本を作成するのが最善であろうと判断するに至った。現在、当該所蔵機関に該本の翻刻許可願いの申請を準備中であるが、そのためにも、諸本の相互関係と、その中での該本の位置づけに関する報告が不可欠であるので、いっそうの伝本の博捜と調査が要されるとの認識を得た。なお、谷山本については、鶴見大学名誉教授岩佐美代子氏および同大学非常勤講師石澤一志氏の情報提供に拠る所が大きい。その他に、本年度は、岡山大学池田文庫所蔵の2本や、九州大学附属図書館蔵細川文庫本などの調査および資料収集を行った。一方、注釈的研究としては、春と夏部はほぼ終了し、雑部の一部にも着手し始めた。これまで唯一の注釈書といってよかった三弥井書店刊行の『中世の文学』に、新たな知見を加えた箇所も少なくない。
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