南北朝時代中期に成立した第17番目の勅撰和歌集、『風雅和歌集』については、その注目すべき内容に比して、文献学的研究、および注釈的研究において立ち遅れが目立っていた。本研究においては、同集の伝本の網羅的調査を行い、京都女子大学附属図書館谷山文庫所蔵本が、精選本系の最善本であることを確認し、これを底本として、校本を作成した。対校本として用いたのは、九州大学附属図書館細川文庫所蔵本、京都府立総合資料館所蔵本、静嘉堂文庫所蔵本、内閣文庫所蔵本、宮内庁書陵部所蔵本(加藤磐斎奥書本)、同(御所本)、同(吉田兼右筆本)、同(飛鳥井雅章筆本)、正保四年版本である。これらはそれぞれ、『風雅和歌集』の伝本の系統を考察する上で、指標となる本文を有すると考えられるからである。注釈的研究に際しては、以上の成果を踏まえてなされる必要がある。谷山文庫本が最善本であるといっても、この一本のみで本文を確定することは不可能であり、個々の異同に関しては、諸本を参看しながら、より正しい本文を策定しなければならない。異風で知られる京極派の生み出した『風雅和歌集』は、その表現にも伝統になじまない個性的なものがしばしば見られるために、書写者の理解がなかなか追いつかず、諸本による問題的な異同が少なくないからである。その注釈的研究についても、作業の主要な部分は終了している。その成果については、『風雅和歌集』の全歌の注釈書を「和歌文学大系」の一冊として明治書院から近時刊行し、公にする予定である。
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