(1)本研究計画が日本近代文学館(駒場)の特別プロジェクトとして正式に了承されたことを受け、今年度も引き続き未調査の太宰治の肉筆原稿の検討を行う許可を得、研究補助者と共に翻刻作業を行った。昨年度に9作品の翻刻作業が完了したのに続き、本年度はあらたに4作品の翻刻作業を完了した。作品数が減ったのは原稿分量が600枚を越える長編小説、「右大臣実朝」の作業に時間を要したためである。次年度に残り9作品を残すのみとなり、計画年度内に作業を完了するメドがたったものと考える。 (2)2001年5月にジュネーブ大におけるシンポジウムで太宰治の「人間失格」の草稿について研究報告を行ったが、その報告内容がフランスの著名な学術誌Litteratureに仏語で掲載され、日本の近代文学の本文研究の現状を欧州に紹介する上で大きな成果を上げることができた。 (3)青森県立近代文学館所蔵の太宰治の執筆手帖(新資料)の調査を依頼され、同館刊行の『資料輯第二号』にその成果を発表したが(昨年度)、今年度はさらにその調査研究をおし進め、詳細な検討結果を「国文学」(学燈社)12月号に40枚の論文として発表(400字詰原稿用紙40枚)した。太宰治の文献学的研究に寄与するものとして関係者の評価を得ることができた。 (4)『太宰治 弱さを演じるということ』(ちくま新書)を執筆刊行、その内容に今回の調査の成果を生かすことができた。 以上、3年目においても、充分な実績を上げることができたものと確信している。
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