平成12年度は、研究環境の整備に重点を置き、『源氏物語』の唐物・交易史関係のデータを入力しはじめた。また福岡市鴻臚館跡と大宰府跡へ調査旅行し、特に古代の渡来品で、秘色青磁とよばれる陶磁器について、集中的に調査を行った。その結果、九世紀後半より大宰府にもたらされた越州窯陶磁器は多いが、秘色とよばれるのは、その中でも限られた特上品であり、それらが平安の宮廷で使われ、『宇津保物語』や『源氏物語』といった文学作品に登場することが明らかになった。平成13年度は、北京への調査旅行では、中国歴史博物館で『華夏の道』という図録を入手し、古代の隋・唐朝から五代十国・両宋時代にかけての文物について、詳しいデータを得た。平成14年度は、『源氏物語』の作者紫式部にかかわる交易史・唐物の調査に力を入れ、特に紫式部に関わる四人の人物、父為時や夫宣孝、仕えた中宮彰子の父道長や実資に注目し、それぞれの大宰府や宋人との密接な繋がりを確認した。調査旅行では、京都市の埋蔵文化財研究所を訪れ、左京・右京地区での越州窯陶滋器の発掘状況について調査した。また夏季と秋季の休みの期間に、『源氏物語』と渤海国・大宰府の二つの交易ルートの分析を中心に、研究成果を集中的に文章化した。平成15年度は、交易品である唐物を人と人をつなぐメディアと捉えて、梅枝巻をはじめ、『源氏物語』第一部の物語の再検討を試み、その成果を研究成果報告書の前半に収載した。さらに前年度までに収集し終わった源氏以外の平安文学関係の唐物や交易史の用例をデータベースとして整理し、それに関しての文献目録も作成した。次に研究協力者である院生や研究生と十数回の研究会をもち、データの分析を行い、その結果は、報告書の後半に収載した。
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