本年度の研究成果は下記の通りである。 1、中世から近代に至る女性教育の変遷をたどる上で、軍記物語が描くところの女性像を取りげ、『女性が学ぶということ-女訓から考える軍記物語-」(『日本文学』2002/12)と『虎と遊女たち』(『国文学解釈と鑑賞別冊 曽我物語の作品宇宙』2003/1)、ふたつの論文において、その内容を検討するとともに、女性教育における軍記物語享受の一端を明らかにした。すなわち、伝阿仏尼作『にはのをしへ』に始まるとされる女訓書が軍記物語との近接を試みたとき、女性が学ぶことに表現を与える上でひとつの転機が訪れた。軍記物語が描く女性像は、たとえば、和歌を用いての叙述に、<色好み>の要素を残しつつもへ、結果的には儒教的な教えに沿いながら、夫や子、家や国に献身を強いる武士的世界を生きてる。暴力による他者支配の構造に根源的に関わるこうした女性像は、中世から近代に至る女性教育の変遷のなかで、確実にその政治的役割を果たしつつ享受されてきたことを論じた。 2、軍記物語にとどまらず、女訓書の諸相を明らかにするために、代表的なありかたを示す作品のひとつとして『女訓抄』を取り上げ、南山大学教授美濃部重克氏との共著『伝承文学資料集成女訓抄』(三弥井書店)として刊行するため、以下を担当した。 (1)穂国文庫本、大阪女子大本、寛永十六年古活字本、寛永十九年製版本、以上4伝本の比較検討を通して、底本を大阪女子大本かも穂国文庫本に改め、本文の翻刻、諸本との校合、校異の作成、および振漢字など、内容理解のための諸作業。 (2)所収説話の典拠・類話の調査と、その影響関係をふまえた上での一覧表の作成。
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