今年度は、次のような調査・研究を実施した。 1、新出和歌詠草の整理。 多くは、柏原正寛(柏原家七代目当主章)の詠草であるが、正寿尼(正寛妻。延子)の詠草も含んでいる。そのほとんどに伴蕎蹊、香川景樹、小川布淑など、正寛・正寿尼の師事した歌人たちの点が施されている。これらをカードに登録し、データベースソフトを用いて目録を作り、重要と思われるものについては写真撮影した。 2、柏原家蔵書目録の研究 洛東遺芳館の蔵書目録七種の作成年次を明らかにすべく検討を加えた。現時点では未解明であるが、検討の過程でいくつかの興味深い事柄が浮かび上がってきた。江戸末から明治期に、多くの漢籍が失われていること、本居宣長著すところの書物が尊重されていたらしいこと、江戸末から明治初期に、宣長・篤胤の著作がまとまって蔵書に加わった形跡があることなどである。 3、柏原家と本山仏光寺、ことに恵岳との関係についての調査 慶章・正寿尼の香川景樹との交渉は本山仏光寺の御堂衆恵岳の仲立ちによって生じたことが、景樹の正寿尼宛書簡から判明した。景樹の「歌日記」等により、桂園派が広く流布した要因に真宗仏光寺派の教団組織に乗ったということがあったと推測されるから、慶章・正寿尼の師事はその具体的事例と見なし得る。しかし、柏原家は東本願寺の檀徒であって、互いが交渉を有した形跡は、柏原家・仏光寺両方の資料に未だ見出し得ていない。本年度は文学関係資料を中心としながら、やや巾を広げて行政文書に類する文書類や柏屋の商用書簡などを調べることに着手した。
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