前年度に引き続き、愛知県本源寺蔵(三聖寺旧蔵)宋版一切、経の基礎的な調査を原本に即して進めたが、本年度は常に十人の参加者を得て、年2回の集中調査を行ない、全体量の、ほぼ半分ほどの調査を了えた。 その過程で、単行の宋版仏書類が確認されたが、詳細な書誌的調査研究は、今後の課題として残すこととなった。 既に確認された成果を刻工名などを基軸にして分類・整理する作業は、調書整理の域を出なかったが、併行して行った東寺蔵宋版一切経の調書打ち込みを先行させており、その成果を活用する準備態勢はととのえつつある。 一方、我邦の文学・文化との交渉に関する調査は、建仁寺両足院・随心院・東寺などで行なった。随心院においては、醍醐寺の宋版一切経舶載に関する、意教上人頼賢の弟子の聞書が蔵されており、貴重な資料となった。 その東密僧意教上人頼賢を介して、宋版一切経の舶載によってもたらされた我邦文化への影響の一端について追求し、学会で口頭発表を了え、その内容を学会誌に掲載した。 従来、知られていなかった頼賢の入宋、宋版一切経の補刻事業への関与、これらの新事実は、高野山・醍醐寺を中心に展開した真言圏内にも新たな流れをもたらしたもの、と想像されるが、今後の課題として改めて追求すべき重要な問題となろう。
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